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独自研究に基づく政策立案:EBPMは何をもたらすか (日本家族社会学会第29回大会, 2019-09 神戸) (報告申込済)

報告資料: https://researchmap.jp/mu1xbddcd-58901/

Paper title: 独自研究に基づく政策立案:EBPMは何をもたらすか

Author: 田中 重人 (東北大学)

Absrtact:

「独自研究」(original research) とは、Wikipedia 用語で「信頼できる媒体において未だ発表されたことがないもの」をいい、具体的には「未発表の事実、データ、概念、理論、主張、アイデア」などを指す [1]。Wikipediaは多数の匿名執筆者が編集することのできるオンライン事典であるため、記事の品質を維持するためにさまざまな規則を設けている。独自研究の利用禁止はそうした規則のひとつで、信頼できない情報源からの情報を排除することによって記事の信頼性を確保する役割を果たしている。

この基準に照らして日本政府の政策立案や評価のプロセスをみると、その多くが政府自身による独自研究に立脚していることがわかる。Wikipediaレベルの信頼性を確保する手段がとられていないので、政策を正当化するために持ち出されるデータの質が保証できない弊害が生まれている。たとえば今年1月の国会での首相施政方針演説のなかにあった、ひとり親家庭の大学進学率が上昇したという数値は、厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」に基づくものとされる [2]。だがこの「大学進学率」をどうやって計算したのかは、当時はよくわかっていなかった。その後の国会質疑 [3] で計算方法の概略はわかったものの、さまざまな疑問点が解消されずに残っている。

政府は、近年、「エビデンスに基づく政策立案」(evidence-based policy making: EBPM) をスローガンに政策の立案・評価過程の合理化を推進している。しかし上のような弊害に対して、EBPMが改善の役に立つかというと、そういう方向には進みそうにない。日本政府の唱えるEBPMは、むしろ独自研究を推進する内容であるからだ。たとえば2018年の総務省「EBPMに関する有識者との意見交換会」の報告 [4] は、ほぼ全編が独自のデータを分析する前提の内容である。「文献調査」は、「関係者からの聞き取り等」と同様のオプショナルな位置づけで、一言だけ言及されている。

一方、医療の分野では、この四半世紀の間に「エビデンスに基づく医療」(evidence-based medicine: EBM) が支配的な潮流となってきた [5]。EBMにおいては、意思決定の材料として使うエビデンスはまず医学文献の網羅的な検索によって得るものなので、独自研究は実質的に排除されている。EBMは「エビデンスに基づく」という冠をEBPMと共有してはいるものの、この点では正反対の方向を向いており、独自研究の弊害を免れている。ただ、EBMに関する議論では、なぜ独自研究を排除するかは示されてこなかった。EBMにとって、医師や病院が文献を渉猟せずに自らの経験だけにしたがって治療方針を決めることは克服すべき悪しき伝統であり、それは議論するまでもない前提だった。

本報告では、意思決定過程から独自研究を排除する意義について、(1) 捏造・改竄の抑止、 (2) 専門家からの批判を通じた信頼性の向上、 (3) 非専門家による反論機会の保障、の3側面から検討する。また、独自研究に基づく政策立案の弊害を防ぐため、独自研究排除原則またはそれと同等の機能を持つ制度を確立する方向性について論じる。

(本研究はJSPS科研費 JP17K02069 の助成を受けたものです。詳細は http://tsigeto.info/19y 参照)

References:
[1] Wikipedia (2018)「独自研究は載せない」. {https://ja.wikipedia.org/wiki/WP:NOR} (2018年8月10日 7:03)
[2] 佐藤 武嗣 (2019)「統計のウソを見破る方法とは あの数字、試しに取材した」『朝日新聞DIGITAL』2019年2月4日08時00分. {https://www.asahi.com/articles/ASM213HH4M21ULZU00G.html}
[3] 国立国会図書館 国会会議録 (2019)「第198回国会 衆議院予算委員会議録第7号」(2019年2月24日). {http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/198/0018/19802140018007.pdf}
[4] 総務省 (2018)「EBPM (エビデンスに基づく政策立案) に関する有識者との意見交換会報告 (議論の整理と課題等)」(平成30年10月). {http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ebpm_opinions/}.
[5] David L. Sackett ほか; 監訳=久繁 哲徳 (1999)『根拠に基づく医療: EBMの実践と教育の方法』オーシーシー・ジャパン. ISBN:4840725349

Keywords: 根拠に基づく政策立案 (evidence-based policy making), 日本政府 (Government of Japan), Wikipedia

Conference: 日本家族社会学会 第29回大会 (2019-09-14..15, 神戸学院大学 ポートアイランドキャンパス)
Session: 自由報告 (1) 3 家族政策 (9月14日(土) 10:00-12:30 会場D217)


History:
2019-05-30 Submitted
2019-06-02 Revision
2019-09-14 Slides

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