オープンキャンパス公開講義「機会の平等はなぜ実現しないのか」 (7/30) 資料
概要
- 日時:
2012-07-30 午後 14:00~15:00
- 場所: 東北大学 川内北キャンパス A-200 教室
- テーマ: 機会の平等はなぜ実現しないのか
- 内容紹介: 近年の日本社会における重要な変化に、男女平等の制度化があります。男女間の実質的な平等を実現すべきとする国民的合意ができ、そのための仕組みが整ってきました。しかし、その一方で、民族や出身による不平等については、制度化はほとんど進んでいません。いずれも「機会の不平等」とよばれる問題なのですが、具体的なあらわれかたはずいぶんとちがうのです。このちがいはどこからうまれてくるのでしょうか? また、これから変わっていく可能性はあるのでしょうか?
- 場所: 東北大学 川内北キャンパス A-200 教室
2012年オープンキャンパス (東北大学全体の説明)
2012年オープンキャンパス (文学部の説明)
基本的用語の定義
- 資源:
人々の欲求の対象であるすべてのもの
- 機会の不平等: ある特定の要因によって、資源の不平等な分配がおきている状態のこと
- 平等の制度化: ある特定の要因によって生じる機会の不平等は正義に反することであるという社会的な合意が存在し、その合意に基づいて、資源配分の平等化を図るための実効的な手段がとられていること
- 規範: 社会の構成員の行為を規制しているルールのこと
- システム: 部分同士が互いに影響しあいながら、全体としての機能を保っている状態
- 機会の不平等: ある特定の要因によって、資源の不平等な分配がおきている状態のこと
目次
[内容詳細へ]
- 自己紹介
- 講師の問題関心と専門領域
- 日本語教育学との関連
- 問題設定
- 機会の (不) 平等とは何か
- 男女平等の制度化
- 基本的人権の歴史
- 社会学の視点
- 抽象化と比較
- 自己組織的システム
- 資源とは
- 近代社会が充足すべき機能としての人権
- 「法の下の平等」から、規則・慣習レベルの差別禁止へ
- システム的差別構造の問題化: 間接的な差別的効果
- 男女平等の制度化の過程
- 平等の制度化は他の領域に波及しうるか?
- 民族による不平等の問題
- 出身による不平等
- 歴史的パッチワークとしての制度
- 「後期近代」の新しい問題
[内容詳細へ]
詳細
(1) 自己紹介
講師の問題関心と専門領域
専門は社会学。主として、大規模な社会調査データを利用した統計的分析をおこなっている。参加している主要な調査として、 「社会階層と社会移動」(SSM) 全国調査 、 日本家族社会学会「全国家族調査」(NFRJ) など。
日本語教育学との関連
東北大学文学部では、 日本語教育学専修 に所属。「現代日本論」担当。
なぜ「日本語教育学」で社会学なのか?
(2) 問題設定
機会の (不) 平等とは何か
- 資源: 人々の欲求の対象であるすべてのもの
資源を多く入手できる人とそうでない人がいる状態を「不平等」という。この状態を善悪という観点から評価する場合にしばしば使われるのが、その不平等は「機会の不平等」かどうかという基準である。これは、その不平等が生じている原因によって、「良い不平等」と「悪い不平等」を区分するということを意味する。
どのような原因によるものを「良い不平等」「悪い不平等」とみなすかには、論者によって非常に大きな幅がある。そのことが、「機会の (不) 平等」概念を理解するのをむずかしくしている。
男女平等の制度化
現在の日本では (そして世界のほとんどの「先進社会」においては)、性別によって生じる不平等は「悪い不平等」である、という社会的な合意が存在する。
- → 男女共同参画社会基本法 [資料参照]
基本的人権の歴史
近代ヨーロッパにおける啓蒙思想→市民革命を支える核のひとつが「基本的人権」である。しかし、それが成立した当初の「人権」の具体的内容は、現在の視点から見ればはなはだ不十分なものであった
- 対象になるのは一部の「市民」のみ → 女性、労働者、異民族の排除
- 国家からの自由を強調し、私的な領域での権力の非対称を容認
今日の私たちが知っている「人権」とは、このような原初的な「人権」を核としながら、大幅にその内容を書き換えて形成されてきたものである。
- → 「20世紀的人権」
(3) 社会学の視点
抽象化と比較
このような具体的な状況 (たとえば「平等」概念の20世紀における拡張) は、抽象的なレベルではどのように表現できるか。
いったん抽象的なレベルに引き上げて議論することで、他の類似の現象への応用・比較が可能になる。
自己組織的システム
- 社会は「システム」である
- 社会は、自分自身のおかれた状況を把握し、自分自身を作りかえて状況に適応していく
- 「近代」は、「人権」を尊重しなければ社会が存続できないような国際環境を作り出し、各社会システムの自己組織的な変動を促した
- この変動は、現在も進行中
規範とは
私たちが従わなければならない「ルール」としてどういうものがあるか?
- 法
- 規則
- 慣習
(4) 近代社会が充足すべき機能としての人権
「人権」の尊重は、近代社会の重要な特徴のひとつ。そこで要求される「人権」の水準は、その成立当初と比較して、大幅に引き上げられてきた。特に、20世紀後半において、国際的な枠組 (国際連合、種々の国際機関、多国間条約) によってその実現が図られてきた。
「法の下の平等」から、規則・慣習レベルの差別禁止へ
「人権」概念は、当初は国家 (=正当な暴力を独占する政治組織) からの個人の自由のみを掲げていた。平等権に関しては、国家が定める「法」のなかで個人が平等に扱われているか (=法の下の平等) が主要な問題であった。
しかし、国家以外にも権力を行使する主体は存在するから、自由に任せておいては平等を実現することができない。そこで、国家は、平等を実現するために私的な領域に積極的に介入する義務があるという発想が出てくる → 広義の「ポジティブ・アクション」と呼ばれることがある。
女性差別撤廃条約 第5条は、「男女の定型化された役割に基づく偏見及び慣習その他あらゆる慣行の撤廃を実現するため、男女の社会的及び文化的な行動様式を修正する」ことを締約国に義務付けている。
システム的差別構造の問題化: 間接的な差別的効果
社会は内部で互いに影響しあうシステムであるため、部分的な領域 (たとえば、労働・家族・医療・教育など) 別に対応を考えたのでは、うまく動かない。つまり、「縦割り行政」ではうまくいかないので、社会全体を見渡して、平等が実現できるための仕組みを考える必要がある。
男女平等の制度化の過程
国際的な動向
- 1946:
女性の地位委員会設置 (国際連合)
- 1948: 世界人権宣言
- 1967: 女性に対する差別撤廃宣言
- 1975: 世界行動計画 (メキシコ会議)
- 1979: 女性差別撤廃条約採択
- 1985: 女性の地位向上のための将来戦略 (ナイロビ会議)
- 1995: 北京宣言と行動要領 (北京会議)
- 1948: 世界人権宣言
日本国内の動向
- 1945:
選挙法改正 (女性参政権)
- 1947: 日本国憲法施行 (「法の下の平等」)
- 1975: 婦人問題企画推進本部・婦人問題企画推進会議・婦人問題企画担当室設置
- 1977: 婦人の十年国内行動計画
- 1985: 女性差別撤廃条約批准
- 1986: 男女雇用機会均等法施行
- 1994: 男女共同参画推進本部・男女共同参画審議会・男女共同参画室設置
- 1996: 「男女共同参画ビジョン」「男児共同参画2000年プラン」
- 1999: 男女共同参画社会基本法
- 2000: 男女共同参画基本計画 (第1次)
- 2001: 男女共同参画局・男女共同参画会議設置
- 2005: 男女共同参画基本計画 (第2次)
- 2010: 男女共同参画基本計画 (第3次)
- 1947: 日本国憲法施行 (「法の下の平等」)
(5) 平等の制度化は他の領域に波及しうるか?
民族による不平等の問題
- 「法」レベルの不平等
- 言語などによる間接的な差別的効果
- 人種差別撤廃条約と女性差別撤廃条約との違い
- そもそも「国民国家」とは?
出身による不平等
- 子供が親から資源を受け継ぐのは「当たり前」か?
- 日本の法律では、親子の関係はどのように規定されているか
- 現代社会における階級の再生産 (→ 社会階層論、社会移動研究)
- そもそも「家族」とは?
歴史的パッチワークとしての制度
- 「民族自決」装置としての国民国家
- 家族を通じた次世代再生産と継承
「後期近代」の新しい問題
- 「グローバリゼーション」は何をもたらすか?
- 出生力低下の社会問題化と再生産の社会化
文献
- 嘉本伊都子 (2010)『国際結婚の誕生: 〈文明国日本〉への道』新曜社.{2001:4788507609}
- 近藤敦 (2010)「日本における外国人のシティズンシップと多文化共生」辻村みよ子・大沢真理 (編) (2010)『ジェンダー平等と多文化共生』東北大学出版会, pp. 119-151.{2010:9784861631467}
- Roemer, J. E. (2001)『分配的正義の理論: 経済学と倫理学の対話』(木谷忍・川本隆史訳) 木鐸社. {2001:4833222876}
- 田中重人 (2010)「女性の経済的不利益と家族: 分配的正義におけるミクロ・マクロ問題」辻村みよ子・大沢真理 (編) (2010)『ジェンダー平等と多文化共生』東北大学出版会, pp. 99-118. <http://www.sal.tohoku.ac.jp/~tsigeto/qfam/mm5.html>
- 田中重人 (2007)「性別格差と平等政策: 階層論の枠組による体系的批判」嵩さやか・田中重人 (編)『ジェンダー法・政策研究叢書9 雇用・社会保障とジェンダー』東北大学出版会, pp. 217-238. <http://www.sal.tohoku.ac.jp/~tsigeto/gelapoc/bk9ix.html>
- 盛山和夫・片瀬一男・神林博史・三輪哲 (編) (2011)『日本の社会階層とそのメカニズム: 不平等を問い直す』白桃書房. {2011:9784561961246}
その他の資料
日本国憲法 <http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html>
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約 <http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html>
第1条 1 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。 2 この条約は、締約国が市民と市民でない者との間に設ける区別、排除、制限又は優先については、適用しない。 3 この条約のいかなる規定も、国籍、市民権又は帰化に関する締約国の法規に何ら影響を及ぼすものと解してはならない。ただし、これらに関する法規は、いかなる特定の民族に対しても差別を設けていないことを条件とする。4 〔……〕
国籍法 <http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO147.html>
第2条 子は、次の場合には、日本国民とする。 (1) 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。 (2) 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。 (3) 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。 第4条 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国籍を取得することができる。〔……〕 第5条 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。 (1) 引き続き五年以上日本に住所を有すること。 (2) 二十歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。 (3) 素行が善良であること。 (4) 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。 (5) 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。 〔……〕
女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約 <http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/josi/3b_001.html>
第三条 締約国は、あらゆる分野、特に、政治的、社会的、経済的及び文化的分野において、女子に対して男子との平等を基礎として人権及び基本的自由を行使し及び享有することを保障することを目的として、女子の完全な能力開発及び向上を確保するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとる。 第五条 締約国は、次の目的のためのすべての適当な措置をとる。 (a) 両性のいずれかの劣等性若しくは優越性の観念又は男女の定型化された役割に基づく偏見及び慣習その他あらゆる慣行の撤廃を実現するため、男女の社会的及び文化的な行動様式を修正すること。 (b) 〔……〕
男女共同参画社会基本法 <http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO078.html>
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 一 男女共同参画社会の形成 男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会を形成することをいう。 二 〔……〕 第四条 男女共同参画社会の形成に当たっては、社会における制度又は慣行が、性別による固定的な役割分担等を反映して、男女の社会における活動の選択に対して中立でない影響を及ぼすことにより、男女共同参画社会の形成を阻害する要因となるおそれがあることにかんがみ、社会における制度又は慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとするように配慮されなければならない。
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