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高校で授業:人口転換と家族制度 (2016-03-22)

日時: 2016年3月22日
場所: 和歌山県立桐蔭高等学校
行事名: 第16回「桐蔭総合大学」
授業題目: 人口転換と家族制度
内容: 近代化につれて死亡率と出生率が下がっていく現象を、「人口転換」と呼びます。人口転換の結果、現在の先進国のほとんどで高齢化と少子化が進み、それにともなって社会制度のさまざまな側面で変革をせまられてきました。この講座では、家族(=夫婦関係と親子関係で結ばれた人々)に関する制度(結婚・扶養・教育・相続など)を中心に、私たちが経験しつつある人口転換にともなう社会変動について考えます。

[http://tsigeto.info/toin160322.pdf]

講義のポイント】

  1. この100年間の出生率と死亡率の動向
  2. 出生と死亡のデータをどう読めばいいか?
  3. 夫婦間、親子間の権利と義務
  4. 前近代の家族制度と近代の家族制度
  5. 出生を規定する要因は、近代化によってどう変わったのか?

○ 20世紀日本社会の人口動態

【課題1】配布資料の生命表 (死亡表) と母親年齢別出生率のグラフから、この100年間の変化を読みとってみよう。

  • 生活水準の向上と医療・衛生の改善で死亡が減る →長寿化・高齢化
  • 出生率低下の原因は?

○ 家族制度の変化

家族制度: 夫婦関係と親子関係を決める社会的な約束事と、それに付随する義務と権利

【課題2】現代の日本社会では、次のようなことはどのように決まっているか。また、江戸時代の社会ではどうなっていただろうか?

  • 「結婚する」とはどういうことか
  • 生まれてきた子供の「親」はどうやって決めているか
  • 夫婦間、親子間には、どのような権利と義務があるか
  • 誰かが亡くなったあと、その人の財産はどうなるか
  • このようなことについて争いがある場合、最終的な結論は誰が出すか

現在の家族制度の特徴:

  • 個人主義
  • 結婚と親子関係それぞれについて個別に権利義務を規定
  • 争い事は家庭裁判所へ (2審以降は通常の裁判と同様)

前近代の家族制度:「イエ」(家) を単位とする自治

【課題3】江戸時代の社会と現代の社会の仕組みの対応を考えてみよう

イエ制度とは:

  • 世襲制経営体 (家業と家産)
  • イエを永続させること、繁栄させることが目標
  • そのために、あとつぎと労働力の確保が重要
  • 家業が拡大できれば →分家をつくって同族集団を拡大

○ 近代社会のなかの家族

近代社会の特徴:機能分化 (政府、企業、団体、保険……)

近代社会の家族に残ったもの:

  • 生活の共同
  • 生殖
  • 子供・高齢者・病人などの世話と扶養

日本では…

  • 20世紀初めごろに都市部で出現
  • 高度成長期 (1960年代) までに一般化

少人数の子供を大切に育てる

あとつぎだからではなく、子供そのものが大切
手間とお金をかけなければならない
育てる人への見返りは、精神的な満足だけ
要求水準はすごく高い
やろうとする人が少なくなる

○ 近代社会の人口問題

人口転換は近代化の必要条件

  • 医療・衛生・栄養状態の改善による死亡率低下
  • 近代的な家族制度による出生率低下

出生率が下がりすぎると、

  • 高齢化にともなう経済的な負担を支えられない
  • 長期的にみて、社会そのものが維持できない

近代社会 (の家族制度) は持続可能なのか?

  • 育てる人の負担を下げる→子供を社会全体で育てる仕組みへの転換

ヨーロッパの一部で効果が確認されているだけ。

普遍的な対策はあるのか?
近代社会の次に来るもの

○ 文献

  1. 京極 高宣 + 高橋 重郷 (編)『日本の人口減少社会を読み解く: 最新データからみる少子高齢化』中央法規出版 (2008年) {ISBN:9784805848210}
  2. 利谷 信義『家族の法』(第3版) 有斐閣 (2010年) {ISBN:9784641135567}
  3. 松信 ひろみ + 島 直子『近代家族のゆらぎと新しい家族のかたち』八千代出版 (2012年) {ISBN:9784842915678}


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濫用される国際比較調査と日本の世論形成: International Fertility Decision-making Survey と少子化社会対策大綱 (第61回数理社会学会大会 2016-03-17)

濫用される国際比較調査と日本の世論形成: International Fertility Decision-making Survey と少子化社会対策大綱

田中 重人 (東北大学)

第61回数理社会学会大会 (2016年3月17-18日) 1日目 自由報告 第4部会「社会問題と公共性」11:25-12:40 第3報告

日本人の妊娠・出産の知識レベルが低いことの根拠資料とされ、2015年「少子化社会対策大綱」における「妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識についての教育」の数値目標設定にも使われた International Fertility Decision-making Study (Cardiff University, 2009-2010) について、対象者構成の問題のほかに、調査設計と質問文翻訳に焦点を当て、問題点を明らかにする。また、なぜこの調査結果が日本の政策を決定するほどの大きな影響力を持つに至ったかを考察する。資料として、公表されている各種文献のほか、独自に入手した日本語版調査票を利用する。

報告要旨 → http://tsigeto.info/16z

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【論文】「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの:プロパガンダのための科学?

下記の論文を出版しました。

2015年8月、妊娠・出産に関する「医学的・科学的に正しい知識」をはじめて盛り込んだ保健副教材改訂版が高校に配布されました。 その第20節「健やかな妊娠・出産のために」に載っていたのが、女性の妊娠のしやすさは22歳で頂点を迎え、そのあと急激に低下していく、という、加齢による減少を誇張したグラフでした。 この論文では、このグラフ改竄事件の経過と、このグラフの元となった研究について、解説と評価を加えます。 また、科学的研究への信頼と男女平等 (男女共同参画基本計画) に関して、この事件からえられる教訓を引き出します。

私たちが専門家を信頼できるのは、彼らは相互に厳しい批判を繰り返してダメな研究成果をふるい落としているはずであり、そのような淘汰の過程をくぐり抜けた確実性の高い知識について、誠実に解説してくれるものという前提があるからだ。今回の「妊娠のしやすさ」グラフ改竄事件から得るところがあるとすれば、このような信頼をおくことのできない専門家集団が実在するという事実を明るみに出したことであろう。
(p. 16)

目次:

  • 「妊娠のしやすさ」改ざんグラフ問題
  • グラフの来歴
  • 「医学的・科学的に正しい知識」の危うさ
  • 性差に基づく男女共同参画?

論文に関する情報:



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東北大学文学部コンピュータ実習室は3月いっぱい閉室します

機材更新工事のため、コンピュータ実習室は下記期間閉室します。

2016年3月1日 (火) から 3月31日 (木) まで

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