Ideology-Institution Dynamics with Causal Modeling
スライド23枚くらいになるので、20分報告ならもうすこしけずるか。科研費プロジェクト http://b.tsigeto.info/251 の協力者募集をどうするか(そもそも通ってれば、だけど)
[題名] イデオロギーと制度の動学: 公共社会学における因果モデルの位置づけ
※科研費プロジェクト→人集め(通ってれば)
原初的問題関心
・計量分析
・事実の発見
・それで何?
・面白ければいいのか?
・消費としての学問?
・投資価値のある研究?
NFRJ08研究会
・WLBへの関心の集中
女性の就業継続
ありそうにない未来
流行りの研究テーマ
・研究しやすい
・読まれる
・知識の効率利用
→多様性の消失
多様性の確保
・学界
・市場
・顧客
公共社会学
架空の存在としての「公衆」
IIDCMの枠組
イデオロギーとは
支配的イデオロギーと制度
「正しい」因果モデルと社会認識
PDCAサイクル
→脱出するには?
目的の階層性と機能的等価性
WLBの失敗
延命策
要求水準の切り下げ
「少子化対策」としてのWLB
WLB論の前提する選択肢構造
政府による直接給付
・生活保持義務
・再生産平等主義
・男女平等
・子供の平等
機能主義とIIDCM
・機能の充足状態=社会指標
・制度が機能を充足する回路についての認識=因果モデル
・制度の変容可能性と規範・法・政治研究
・潜在的論争点を顕在化させる
公共社会学の担い手
・個人
・プロジェクト(NFRJ?)
・学界
・公衆
・他分野とのコミュニケーション
※人材募集
・IIDCMを使った研究
・研究成果の電子的共有
・過去の社会学研究が役に立った/立たなかった事例の収集
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両立政策が結婚・出生をめぐる意思決定にあたえる経済的影響
Blogos に変な記事が。
また、経済学的には一度得た生活水準はなかなか落とせないという学説があります。若者が結婚する前に享受したライフを結婚後、共稼ぎの間、更に引き上げたとすれば子供ができることで経済的理由からそれを大きくシフトダウンしにくいのであります。
ヒロ (2015-02-15)「逆効果も考えられる女性の社会進出と少子化問題」
<http://blogos.com/article/105659/>
<http://blog.livedoor.jp/fromvancouver/archives/52413659.html>
いや、私たちが子供を扶養する義務を親に押しつけてる以上、子供がいればそのぶん貧しくなるのはあたりまえの話だから。経済学的にいうなら、そもそも「シフトダウン」(=等価所得の減少)を許容できる者でなければ子供など持たないのである。その事情は、共働きでも、片働きでも、独身でも、有配偶でも変わりない。
こういう変なことをいいだす人が出てくるのは、結婚や出生をめぐる基本的な経済状況の変化が見通せてないせいだと思うので、簡単に解説を。
○ 基本的な考えかた
年収(可処分所得)500万円の人について考えてみよう。子供がなく、1人で暮していれば、年間500万円をまるまる自分で使える。ここに子供ができるとどうなるか。また、結婚するとどうなるか。いろいろな場合を考えて計算してみよう。こういうことを考える場合は、世帯所得を世帯人数の平方根で割って「等価所得」(equivalent income) を求めるのが、生活水準を推測する簡便な方法として広く使われている。この記事でもそれを利用する。( )内が、世帯内の大人の年収 (万円) である。勤労所得以外の収入源、持ち家等の資産、自分と配偶者と子供以外の世帯員、育児のための各種手当や税控除などの存在は、下記の注※以外は考慮していない。
A. 独身ひとり暮らし:大人1人(500) 子0人 → 500/√1 = 500万円 B. 有職の単親と2子:大人1人(500) 子2人 → 500/√3 = 289万円 C. 無職の単親と2子:大人1人(0) 子2人 → 125万円※ D. 共稼ぎ夫婦で無子:大人2人(500+500)子0人 →1000/√2 = 707万円 E. 共稼ぎ夫婦と2子:大人2人(500+500)子2人 →1000/√4 = 500万円 F. 片稼ぎ夫婦で無子:大人2人(500+ 0)子0人 → 500/√2 = 354万円 G. 片稼ぎ夫婦と2子:大人2人(500+ 0)子2人 → 500/√4 = 250万円 (※ 私的・公的扶助で貧困線を維持できるとして125万円。離婚給付などは考慮していない。)
○ 両立不可能な社会
まず、育児と仕事を両立できない状況を考えよう。この状況では B と E は選べない。したがって、子供を持つかどうかに影響するのは、つぎの場合の比較ということになる
- X0: 結婚相手がいない場合 → A 対 C
この場合、子供がいなければ年間500万円使える (A)。これに対し、子供ができることで仕事が続けられなくなり、所得がゼロになってしまう。公的扶助等で最低限の生活費がえられるとしても、年間125万円くらいのレベルになる (C)。生活水準は25%くらいに落ちることになる。
- X1: 結婚相手がいるが、結婚退職を強制される場合 → A 対 F 対 G
この場合、結婚しなければ年間500万円使える (A)。これに対し、結婚すると片稼ぎになってしまう。子供がいなくても、夫婦2人の生活を自分の年収500万円で支えなければならない。等価所得は年間354万円まで落ちる (F)。これに加えて子供が2人いるとなると、年間250万円相当 (G) である。つまり、結婚前 (A) を基準にすると、結婚することによって約7割、子供ができると5割にまで生活水準が落ちる。
- X2: 結婚相手がいて、結婚退職を強制されない場合 → A 対 D 対 G
この状態が、現在の日本社会で多くの若者が直面する状況である。この場合、結婚しなければ年収500万円 (A) なのに対し、結婚すると年間707万円相当の生活が送れる (D) ことになり、生活水準が約4割あがる。ここから子供ができると年間250万円相当 (G) になり、結婚前 (A) に比べて5割、結婚後 (D) と比べると35%程度まで落ちる。
○ 両立できる社会
さて、育児と仕事を両立できるように社会が変化すると、どうなるか。ここでは、単純化のため、配偶者と自分の収入はおなじであり、また子供ができても収入は変化しないような理想的な両立手段が提供されている、と仮定しよう。
- Y0: 結婚相手がいない場合 → A 対 B
この場合、子供がいなければ年間500万円使える (A)。これに対し、子供が2人できると、3人世帯でこの500万円を共同で使うことになる (B)。生活水準は289万円相当 (約6割) に落ちる。
- Y1: 結婚相手がいる場合 → A 対 D 対 E
この場合、結婚しなければ年収500万円 (A) なのに対して、結婚すると等価所得が年間707万円相当 (D) まであがる。これは現在の状況 (X2) とおなじである。ここから子供が2人できると、4人で世帯収入1000万円を共同で使うことになる (E) ので、500万円相当に落ちる。これは、結婚後 (D) を基準にすれば約7割ということだ。しかし、結婚前 (A) と比較すれば、生活水準はぜんぜん変わっていない。
○ 考察
以上の結果から、つぎのことがいえる。
結婚する場合、かつての日本社会では、女性の結婚退職が制度化されており、X1 に近い状態にあった。この制度下では、結婚することのペナルティが3割、さらに子供ができると5割も生活水準が落ちる。ただし、結婚した段階 (片稼ぎで子供なし) ですでに生活水準が落ちているから、そこを基準に考えれば、子供を持つことのペナルティは3割程度ともいえる。
近年の日本では、結婚退職は大きく減った。制度化された結婚退職というのは、もはやかなり特殊なものになっている。ところが、育児と仕事の両立は依然としてむずかしい。その結果、現在では、出産前後での退職が主流になっている。このような状況 (X2) においては、結婚して共稼ぎなら結婚前より4割の経済的プレミアムがある。しかし、子供が2人できて片稼ぎになれば、結婚前の5割の生活水準に落ちることになる。結婚後の子供がいない状態を基準にすれば、65%のペナルティである。
つまり、現在の日本社会の結婚・出生をめぐる経済的環境は、つぎのようなものなのだ。
- 結婚と出生がセットと考える (=子供を持たない夫婦生活が眼中にない) 人にとっては、子供を持つことのペナルティは5割程度であり、以前と変わっていない
- 子供を持たない夫婦生活と比較考量する場合、子供を持つことのペナルティは、以前は3割程度であったのが現在は65%程度になっており、大きく増加している
この経済状況の変化が婚姻内出生力の低下の幾分かを説明する可能性はある。ただし、1980年代以降の出生力低下の最大要因は、結婚の衰退である。「共稼ぎで子供を持たない夫婦が増えたから子供が減った」というのは、近年の日本社会における「少子化」現象全体の説明としてはかなり外している。
これに対して、育児と仕事の完全な両立(=子供ができても収入が減らない)が実現すればどうなるか (Y1)。結婚して共稼ぎの場合、子供2人できたときの生活水準は、結婚前の生活水準とかわらない。つまり、結婚して子供を持つことの経済的ペナルティはゼロである。結婚後の無子の状態を基準にすると約3割のペナルティは発生するが、現在の状況 (X2) におけるペナルティが65%であることとくらべれば、ずっとちいさい。また、結婚退職制度下 (X1) におけるペナルティと比較しても、結婚後を基準とすれば同程度 (約3割) であり、結婚前を基準とすればずっとちいさくなる (というか存在しない) ことがわかる。
他方で、結婚しない場合に子供を持つことのペナルティは、両立不可能な社会では所得の75%に及ぶ (X0) のに対し、両立可能になれば4割程度で済む (Y0) のであり、この場合もやはり、両立可能な社会のほうが、子供を持つことの経済的不利益がちいさくなることがわかる。
○ 結論
というわけで、育児と仕事の両立を進めれば、子供を持つことの経済的な不利益はちいさくなる。したがって、もし経済的な損得だけで出生力が決まるとの前提に立つなら、両立政策は出生力をひきあげると結論できる。(もっとも、現在まで両立政策を進めてきたにもかかわらず出生力があがっていないのはあきらかなので、この前提が偽であることもあきらかであるが。)
もちろん、結婚して子供を持たない選択 (D) と比較すれば、子供を持つことのペナルティは、たとえ育児と仕事の両立が完全にできたとしても、やはり3割程度存在する (E)。しかしそれは、子供を育てるのにお金がかかる (そして親には子供に自分と同程度の生活水準を保障することが義務付けられている) ことの当然の帰結である。収入が増えないのに扶養義務のある相手を抱え込めば、それだけ自分の生活水準はさがる。それは、共働きであろうがなかろうが、また結婚していようと独身だろうと、まったくおなじなのである。
この点を心配するのであれば、それは両立政策とは関係ない話である。むしろ、子供に対する経済的扶養義務から親を解放し、公的機関がすべての子供の生活保障を(親の所得とはかかわりなく)おこなうなどの政策転換を考えるべきであろう。この件については2014-07-09に書いた記事「「現役世代支援」は少子化を促進する」{blog:232} 参照。
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